松永エリック氏「自己中3.0」の時代がやって来る
プロギタリストという異色の経歴を持つ経営コンサルタント、松永 エリック?匡史氏。アーティストでありながら、音楽?映画?ゲーム?広告と幅広い分野でメディア戦略を立案し、2019年4月からは青山学院大学教授の肩書きも加わる。
松永氏が最近提唱しているのが、「自己中3.0」というキーワード。世界規模で事業環境が変化する中、我々一人ひとりが自身の生き方を「受動」から「能動」へとシフトする必要があると説く。その結論に至った背景、これからのビジネスの形について、本人に考えを聞いた。
――「自己中3.0」の時代とは、どういうものですか?
松永 人生100年時代と呼ばれるようになり、人を気にして生きていくのは、そろそろ限界に来ているのではないか。自分自身をより主張することが求められる時代が到来しつつあるのではないか、という僕自身の考えを端的に表現した言葉です。
一般論として、これまで日本人は自分をPRする機会が多くありませんでした。表に出ることは何となくリスクだと感じていて、目立つと「叩かれるのでは」「批判されるのでは」とビクビクしている人は少なくありません。けれども、これからはもっと自分から情報を発信していく必要がある。周囲に何か言われても、あえて自分の価値観を主張するべきだという思いを込めて、「自己中3.0」と名付けました。
では、これまではどうだったか。
まず、「自己中1.0」というのは社会や世論のムードが決めていた時代です。分かりやすいのが、1980?90年代のバブル期。女性が中心となり、高身長?高学歴?高収入といういわゆる「3高」と呼ばれる価値観を男に当てはめました。これが、共通の指標となり、男性はそれを目指したし、女性も3高の人と付き合うことが自分の価値を決めると信じていました。仮に自分の価値観が違っていても、周囲には打ち明けるのが難しかった時代です。
みんなSNSで何をするんだ?と感じ始めている
その後に到来したのが「自己中2.0」です。今度は個人がそれぞれの価値観を主張できるようになりました。ちょうど、SNSが登場して誰もがネットでつながるソーシャルの時代になりました。この波が意味したのは、僕は「承認欲求の民主化」だと考えています。
それまで、承認欲求を満たせるのは、芸能人など一部の有名人に限られていました。それが、例えばSNS「マイスペース」の登場によって、手の届かない存在だった芸能人が自分たちの世界に降りてくる錯覚を与えてくれた。「マドンナとSNSでつながれて嬉しい!」みたいに。
これ自体は大きな変化だったのですが、一部の人は、自分の価値観を表現するよりも、自分の承認欲求を満たすことが目的になってしまいました。単純に「いいね!」の数を増やしたり、友達の数を増やすことにみんな必死になっています。気が付けば、食べもしない食品を買って撮影して投稿したり、着ることもない洋服を取り寄せて写真を撮影するという不思議な事態が起きています。
正直、今は多くの人が「SNSで何をするんだ?」という状況に陥っている気がします。こうした文脈の中で、反動として「自己中3.0」の時代が到来しつつあると思います。
――自分のやりたいことを、積極的に発信して、主体的に行動していく時代ということですか?
松永 そうですね。自己中心と聞くと、過激に聞こえますが、メッセージ自体は、ビル?バーネット氏の『ライフデザイン』やリンダ?グラットン氏の『ライフ?シフト』と通じるものがあると思っています。自分の人生なんだんから、人任せにしないで、自分の価値観で自分でデザインしようと。そこに人の評価は関係ありません。
今のLinkedInを見ると、多くのつながりは「組織」や「肩書き」といったタグで構築されていますよね。IBM、オラクル、シスコ等の会社名という組織タグ、マーケティング、営業という肩書タグ。それらをベースに信頼関係を結んでいる。
僕は、これも特殊な承認欲求だと思います。肩書きを記載する人は「俺は一流企業だぜ」という自己満足があるし、つながるほうも「私は一流企業の人とつながれる」ということで満たされる。有名なタグに人が多く集まる構図ができています。
顕著な例が、今のネット系のメディアで、どのメディアも同じ有名人を使いたがります。だから、みんな同じことを言っているように見える。最近はアウトプットを読まなくても、内容が大体予想できてしまいます(笑)。差異化が難しいし、どれも似ているので、みんな飽き始めていますよね。
イベントにも同じことが言えます。情報発信できる人が限られている結果、毎回顔ぶれが変わりません。出演者同士、仲良くなることは素晴らしいのですが、一方で議論がわりと予定調和になるんですよ。「俺がこう言ったら、こうくるよね」みたいなことが読めてしまう。
僕自身も、おそらく「デジタル」というタグが貼られていて(笑)。デジタルトランスフォーメーションをずっと伝導する役割だと思われています。だけど、正直ずっとやっていると、飽きちゃうんですよね。その反動のような形で、急速にコミュニティの在り方が変わってきていることを感じます。人が集まるタグが変わってきている。
違うタグコミュニティへと変化している
――「タグ」はどのように変わっているのですか?
松永 もっと内面的なものだったり、趣味趣向だったり。より、気の合う人同士のつながりが強くなっていく気がします。深くて、細かいコミュニティが無数に存在するような。
その意味では、昔のサービスは正しい姿を持っていると思っていて、原点に回帰すると言えるかも知れません。例えば、ニフティサーブは正しかったと思うんですよ。かなり封建主義的なコミュニティで、本当に限られた人が緊張感を持って参加していました。
例えば、僕は「#FROCK」というフォーラムに参加していました。ロックのすごく詳しい人が発言しまくっていて、ちょっと失言したり態度が悪いと、即退出しないといけない(笑)。アホなことを言った二度と戻ってこれないという、すごい緊張感があるわけです。素人丸出しは、絶対NGでした。それでも、当時は従量課金でおカネかかった時代なのに、深夜の通信料金が安い時間帯にプリントアウトして、せっせと読んでいました。それだけ読む価値があったんですよ。
だから、名刺よりもパワーがある関心や趣味でつながる世界を示していけばいいと思います。ビジネスで言えば、コミュニティの濃度を濃くすれば、おカネは取れると思うんです。どんどんコンテンツの対象を深く狭くして、値段を上げればいい。その時、鍵を握るのは、人の熱量だと思っています。どれだけ、その人の熱量が高いか。それで、メディアもコミュニティも活性化の成否が決まると思います。
――個人の意識を変える必要がありそうですね。
松永 今は、猫も杓子もコミュニティと言う時代です。でも多くがなかなか盛り上がらなかったり、続かない。それは、やっぱりコミュニティ作り下手な人がやっているからではないでしょうか。だって、主催者が本当にコミュニティのことを愛して運営しているか、参加すればすぐに分かりますよね。
SNSも、結局コミニティ作りのツールに過ぎません。だから、コミュニティ作りが上手な人は、ツールを使ってコミュニティがどんどん深くなる一方で、そうではない人は、期待だけして、がっかりしてやめるんですよ。多分、やめる人は、コミュニティに対する過度な期待がある。ツールがあれば何かできると思うんだけど、使い方が分からないわけですよ。
――では、本気でコミュニティを作りたい人はどうすればいいのでしょうか?
松永 先程の話の続きで言えば、まずは正しいタグを見つけることだと思います。そのヒントになるのは、僕は、一つのことに没頭できるテーマだと思います。
僕の例で言えば、クルマです。自分も含め、世の中には異常なクルマ好きがそれなりにいて、みんなで集まるとやっぱり盛り上がるんです。トライアスロンもそうだし、誰もができるわけではないんだけど、没頭しないとできないことを軸に探すと、テーマは結構見つけやすくなると思います。
逆説的ですが、一つのことに没頭している人って、大抵何かのコミュニティに属している。だから、結構みんな気が合うんです。そうやってみんなが共感できるものを見つけて、そこから広げていく。
もう一つ大切なのは、そのコミュニティに一緒にいて気持ちがいいかどうか。ちょっとふわっとしていますが、ここは理屈じゃないんですね。自分の好きいいんですよ。100万人のうち何人かの嗜好があうから作るではなくて、俺が気持ちいいからいいんだよと。うまく表現できないけど。うまく言えてはダメだと思うんですよ。だから自己中だとも言える。
一にも二にも、体験が大事
――どうすれば、一緒にいて気持ちいい人を探し当てることができるのでしょう?
松永 ここまでの話が腹落ちして理解できる人は、行動して体験していくことだと思います。その意味では、2.0の時代は行動が伴わない評論の時代だったかも知れませんが、3.0の時代は実際の行動が必要です。みんなで経験して、共感して、記憶に残っていく。それが次第に、とても居心地のいい場所になっていく。そうなれば、コミュニティからは簡単には離れません。だから僕は本当にこれからは好きなことをやるべきだと思います。
自分はクルマが好き、本が好き、食事が好き、何でもいいんだけど。熱意がある人はそれが伝わって、「この人とこの人をつなごう」と周囲に思わせていく。そうやって、コミュニティはどんどん広がっていくイメージですね。
――日本の企業組織にもこうした動きは広がっていくでしょうか?
松永 懸念しているのは、従来型の考えではこの新しい時代に合わせるのは難しいということですね。想定されるのは、社内でこうしたコンセプトをベースにしたビジネス案を紹介しても、「他社で事例があるのか」といわれる事態です。だけど、絶対ないんですよ。まったく新しいコンセプトなんだから。
事例がないのは当たり前で、おそらく経営陣が理解できるようになってから出したのでは遅い。大切なのは、とにかく始めてみることですね。その意味では、一歩踏み出す勇気と失敗を許容できる組織かにかかっています。どんどん始めて、どんどん失敗する。そうした意識が日本の企業にはまだまだ少ないと感じています。
――となると、作る側の意識次第ということになりますね。
松永 年を重ねてくると、結局は人に尽きるとしみじみ思います。ある程度のポジションになれば、報酬よりも、誰と一緒に仕事するかとか大きくなります。だって、嫌な奴だったら横にいるだけでムカつくじゃないですか(笑)。好きな人と仕事をするというのがでてくるとおもうんだけど、日本は我慢が美徳になっているので。
起点を自分にして、自分がいい人だけで固めると、他と違ってくると思いますよ。そうすると、飲み会も楽しい。そして、不思議とそういう人と飲んでたりすると、新しい仕事が生まれるということが起こります。やっぱり人間って波長なんだと。
組織のマネジメントの形も変わる
自己中3.0の時代には、率先して行動して体験できる組織が必要です。その顕著な例が、テクノロジーと経営の関係で、これからは、アイデアを考えるトップの人と、横にそれを形にできるテックの人が机を並べている必要があると思っています。
経営トップが「こんなの考えたんだけど」とアイデアを披露したら、テクノロジーの人間が、「それ、3週間で作れますよ」という掛け合いができる関係でないとダメだと思います。既に、そうした変化に取り組もうとしている企業もあります。
――すでに自己中3.0の時代が到来していると言えますか?
松永 自己中3.0は、全員が変われるわけではないかも知れません。せいぜい、日本全体の2割くらいだろうと思います。コミュニティを自分で作りたい人はそんなに多くないかも知れない。
だけど、僕はその2割でも変えていく人が行動すれば、日はもっと面白くなると思っています。やっぱり、熱量だと思います。みんなもっと、ワガママに生きたらいいんですよ。会社のラベルなんて、いずれ消えるんだから。
— 聞き手は 蛯谷 敏(Satoshi Ebitani)
国家資格2級キャリアコンサルティング技能士/国家資格キャリアコンサルタント/【成長したい個人と成長したい企業を支援し、残すに値する未来を創る】
6 年エリックさんはニュースピックスでも何度か記事を拝見しましたが、ギターが好きと言うところからか、めちゃくちゃ話が合うというか根っこが同じ気がします(^^)
車中泊ステーション(RVパーク)管理人
6 年コワーキングスペースを利用される方の中に、自己中3.0がおられます。お話を聞くと面白いんですよ、
B2B Business Samurai Coach / Personal Branding Coach / MBA Professor / Social Selling Consultant / B2B Lead Generation Marketing / The Japanese market entry / Karate??Judo Lover / ENFP-A / #karateforseniors
6 年「LinkedInを見ると、多くのつながりは「組織」や「肩書き」といったタグで構築されています」とあるのは新鮮でした。そういう見方をしたことがありませんでした(検索におけるFIlter機能でその辺りを確認できます)。ビジネスSNSなので、このTag付けは正しいと思います。ただし「それらをベースに信頼関係を結んでいる」のはLinkedInの本質ではないと思いました。とはいえ、そういう意見が出るというということは、事実でもあります。そうなると、信頼出来る組織に所属している方々はそれだけで立ち位置が有利なので、ますますLinkedInを活用してPersonal Brandingを築くことができると思います。LinkedInでは一般個人が、大企業よりインパクトを与えることができるのが、大きな魅力ですね。
Talent @ Notion We're hiring! notion.so/careers | LEGO?? SERIOUS PLAY?? Facilitator | 転職?移住相談受付 | @シドニー | ライフステージに合わせた柔軟なキャリア選択が出来る世の中へ #一緒にBBQ??したくなる人
6 年「これからは好きなことをやるべき」という考えに強く共感します。人は好きなことをやっていると、アウトプットのクオリティも生産性も圧倒的に高いです。