?現職の財務省トップが政策批判!
財務省事務方トップの矢野康治事務次官が、政治家のバラマキ政策論を批判したとして、話題となった。以下にヤフーファイナンスからの記事を全文引用する。
(引用ここから、URLまで)
「最近のバラマキ合戦のような政策論を聞いていて、やむにやまれぬ大和魂か、もうじっと黙っているわけにはいかない、ここで言うべきことを言わねば卑怯でさえあると思います。
数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」
そう語るのは財務省事務方トップの矢野康治事務次官(58)。10月末の総選挙に向けて与野党ともにバラマキ合戦のような経済政策をアピールするなか、財源も不確かな財政楽観論を諫めようと、「文藝春秋」11月号に論文を寄稿した。財務事務次官と言えば、霞が関の最高ポストのひとつ。在任中に寄稿するのは異例のことだ。
「今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです。タイタニック号は衝突直前まで氷山の存在に気づきませんでしたが、日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです」
10月末には総選挙も予定されており、各政党は、まるで古代ローマ時代の「パンとサーカス」かのように大盤振る舞いを競う。だが、日本の財政赤字はバブル崩壊後、悪化の一途をたどり、「一般政府債務残高/GDP」は256.2%と、第二次大戦直後の状態を超えて過去最悪。他のどの先進国よりも劣悪な状態にある(ちなみにドイツは68.9%、英国は103.7%、米国は127.1%)。
「心あるモノ言う犬」としてお話したい
「私は、国家公務員は『心あるモノ言う犬』であらねばと思っています。昨年、脱炭素技術の研究?開発基金を1兆円から2兆円にせよという菅前首相に対して、私が『2兆円にするにしても、赤字国債によってではなく、地球温暖化対策税を充てるべき』と食い下がろうとしたところ、厳しくお叱りを受け一蹴されたと新聞に書かれたことがありました。あれは実際に起きた事実ですが、どんなに小さなことでも、違うとか、よりよい方途があると思う話は相手が政治家の先生でも、役所の上司であっても、はっきり言うようにしてきました。
『不偏不党』――これは、全ての国家公務員が就職する際に、宣誓書に書かせられる言葉です。財務省も霞が関全体も、そうした有意な忠犬の集まりでなければなりません」
矢野氏の告発の背景には、これまで財務省が政治家との関係を重視するあまり、言うべきことを言って来なかったという反省もある。
「もちろん、財務省が常に果敢にモノを言ってきたかというと反省すべき点もあります。やはり政治家の前では嫌われたくない、嫌われる訳にはいかないという気持ちがあったのは事実です。政権とは関係を壊せないために言うべきことを言わず、苦杯をなめることがままあったのも事実だと思います。
財務省は、公文書改ざん問題を起こした役所でもあります。世にも恥ずべき不祥事まで巻き起こして、『どの口が言う』とお叱りを受けるかもしれません。私自身、調査に当たった責任者であり、あの恥辱を忘れたことはありません。猛省の上にも猛省を重ね、常に謙虚に、自己検証しつつ、その上で『勇気をもって意見具申』せねばならない。それを怠り、ためらうのは保身であり、己が傷つくのが嫌だからであり、私心が公を思う心に優ってしまっているからだと思います。私たち公僕は一切の偏りを排して、日本のために真にどうあるべきかを考えて任に当たらねばなりません」
“破滅的な衝突”を避けるためには……
「昨今のバラマキ的な政策論議は、実現可能性、有効性、弊害といった観点から、かなり深刻な問題をはらんだものが多くなっています。それでも財務省はこれまで声を張り上げて理解を得る努力を十分にして来たとは言えません。そのことが一連のバラマキ合戦を助長している面もあるのではないかと思います。
先ほどのタイタニック号の喩えでいえば、衝突するまでの距離はわからないけれど、日本が氷山に向かって突進していることだけは確かなのです。この破滅的な衝突を避けるには、『不都合な真実』もきちんと直視し、先送りすることなく、最も賢明なやり方で対処していかねばなりません。そうしなければ、将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってきます」
国家財政をあずかる現役トップ官僚の告発「 財務次官、モノ申す 『このままでは国家財政は破綻する』 」全文は「文藝春秋」11月号(10月8日発売)に掲載される。
この寄稿は、同氏が指摘する「将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってきます」という巨額の財政赤字に対して、「やむにやまれぬ大和魂」、「心あるモノ言う犬」、「『どの口が言う』とお叱りを受けるかもしれません」、「勇気をもって意見具申」などと、相当な覚悟で述べた意見のようだ。
ここで私が感じる問題点は、誰が見ても明らかことを、担当官庁のトップが意見するのに、ここまでの覚悟が必要だという風通しの悪さだ。
では同氏が述べる「将来必ず、財政が破綻するか、大きな負担が国民にのしかかってきます」というのが、具体的に何を意味するのかを、新著?問題集の該当箇所から、引用する。
【問題29】 膨らむ公的債務残高
日本の公的債務残高は2011年の東日本大震災後にGDP比での過去最大を更新し、その後も増え続けています。IMFの見通しでは、2020年はGDP比260%を超えたとされています。
その前のデータに残る過去最大の債務比率は第2次世界大戦終了時のGDP比200%強ですが、その時の政府債務はどう解消したのでしょうか? ちなみに、日清、日露戦争時とは違い、第2次世界大戦時は世界相手に戦ったので、外国からの政府債務はなかったとされています。
(複数回答可)
1. ハイパーインフレーションにより、債務(国債)の価値が事実上大幅に減少した(高物価負担を国民に課した)
2. 国民の預金封鎖を行った
3. 国民への増税で賄った
<タップして答えを見る>
【答え29】 1、2、3の全部
下図29に見られるように、日清戦争、日露戦争、昭和金融恐慌、満州事変のころでさえ、日本の公的債務残高はGDPをはるかに下まわっていました。当時の日本のGDPはそれほど大きくなかったので、絶対額は現在よりはるかに小さかったことを示しています。
第2次世界大戦では日本の公的債務残高はGDP比200%超えまで急増しました。戦後には貨幣価値が暴落、「1.ハイパーインフレーション」が発生しましたので、1946年2月16日に新円への切替えを発表、翌日の17日より「2.預金封鎖」し、預貯金を引き出せないようにした上で最大90%課税するという「3.増税」を行うに至りました。
また、1946年3月3日付けで「旧円」の市場流通の差し止める等の金融制限策を実施し、新しく「新円」を発行しました。そのため市民が戦前に旧円で持っていた現金資産は、日本国債等債券同様にほぼ無価値になったのです。
以下の「内」にその時の状態を引用します。
「終戦時の累積政府債務は、そのほとんどが戦後の急激かつ大幅なインフレによって実質的に解消された。1944年から49年にかけて、日本の卸売物価は約90倍となった。その結果、政府債務残高は49年度末にはGDP比で19%まで低下したのである。これは、直接?間接に政府への債権を持っていた国民にインフレによる事実上の税を大規模に課すことで、累積した政府債務を一挙に縮小させたことを意味する。」
(余談ですが、現在多くの国の中央銀行が検討や導入をすすめている「中銀デジタル通貨」では、中央銀行がすべての国民の事実上の「口座」を管理することになる模様で、そうなると預金封鎖や増税が瞬時に完璧に行えるようになると見ています。)
また、戦時中の窮乏生活自体が国民による政府債務の負担だったとも言われています。
(引用ここから、URLまで)
戦費は税で調達するにはあまりにも膨大だから、公債の増発によって調達されることが多い。
日清戦争以降の臨時軍事費特別会計の公債依存度を見ると、日露戦争の時にも公債依存度は高かった。この時は、外国からの借り入れが多かった。しかし、第2次世界大戦では、このオプションは使えなかった。
国内で調達された戦費のほとんどは、日本銀行による国債の直接引き受けで賄われたのである。
日銀は、国債を買った対価を日銀券というマネーを増発することによって支払う。政府は、そのマネーを兵士の給与や食料?衣料品等の購入、兵器?軍事物資等の購入に充てる。
(中略)
GNPに対する個人貯蓄の比率は、1935年には13.8%であったが、1944年に27.0%にまで上昇している。
そして、政府は国民にも「戦時国債」という名の国債を買わせ、貯蓄部分も吸収したのである。
ところで、「第2次世界大戦の戦費は、戦後のインフレで賄われた」と言われることがある。
戦時中に買わされた戦時公債は、戦後のインフレでほぼ無価値になった。この時に負担が生じたように見える。確かに、国と国債保有者の関係ではそうだ。
しかし、国全体としては、戦争の費用をこの時に負担したわけではない。それは、戦時中に、生活を切り詰めることによって負担されたのだ。
「国内で調達された戦費のほとんどは、日本銀行による国債の直接引き受けで賄われたのである。日銀は、国債を買った対価を日銀券というマネーを増発することによって支払う。」
こうしたことは、黒田日銀が量的緩和によって大量の日本国債を購入し、経済規模を超えるマネーサプライを行っていることで、現在の日本に再現されています。
戦後になっても、通貨が変動相場制に移行することになるニクソンショックや、オイルショックなどがありましたが、それでもバブル期までの日本の公的債務残高はGDP比50%強を上限としていました。しかし、1990年に税収が事実上のピークをつけたことで、債務の膨張を防ぐ手だてが事実上なくなったと言っていいでしょう。
◆参照図29:債務残高は空前の規模(出所:財務省)
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図29は、財務省のホームページにある1890年度から2020年度までの日本の公的債務残高のGDP比の推移です。債務残高に大きな影響を与えると思われるイベントを書き込んでくれています。
<タップして問題30へ進む>
矢野康治事務次官は、「数十兆円もの大規模な経済対策が謳われ、一方では、財政収支黒字化の凍結が訴えられ、さらには消費税率の引き下げまでが提案されている。まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかりが聞こえてきます」と述べている。
しかし、ここは同氏の発言がデータに基づくとは言えないところで、消費税の導入こそが財政赤字、債務拡大の最大要因だと言えるのだ。
つまり、上記の答え29の「1990年に税収が事実上のピークをつけたことで、債務の膨張を防ぐ手だてが事実上なくなったと言っていいでしょう。」の原因は、1989年に導入した消費税なのだ。
これも新著?問題集の該当箇所から、引用する。
【問題02】 消費税収は成長率、所得税収、法人税収とトレードオフ
日本の大きな税収源の種類は、所得税、法人税(企業にかかる所得税)、消費税の3つです。2019年度までで、それぞれの税収がピークをつけたのはいつでしょうか? 下の組み合わせの中から選んでください。
1. 所得税1991年度、法人税1989年度、消費税2019年度
2. 所得税2018年度、法人税2018年度、消費税2019年度
3. 所得税2019年度、法人税2019年度、消費税2019年度
<タップして答えを見る>
【答え02】 1
所得税収のピークは1991年度の26.7兆円、法人収のピークは1989年度の19.0兆円、消費税収は2019年度の19.1兆円が過去最高でした。
下図02に見られるのは、消費税収が増え続けているにもかかわらず、景気後退を受けて所得税と法人税とが減ったために、総税収も低迷してきたことです。ちなみに、右端2020年度の一般会計税収としてある55.1兆円は2020年末の修正値で、後に60.8兆円に再修正されています。
◆参照図02:税収と名目GDP成長率(出所:財務省と内閣府の資料から作成)
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図02の上部は、1987年度からの日本の総税収の推移(青色の棒グラフ)と、所得税収の推移(赤色の折れ線グラフ)、法人税収の推移(青点線の折れ線グラフ)、消費税収の推移(黒色の折れ線グラフ)です。下部は同期間の名目GDP(国内総生産)の前年度比での推移です。赤い矢印は消費税の導入時期と税率。加えて、長期景気拡大期も記入しました。
<タップして問題03へ進む>
この問題集は、日本経済を再生させるには1988年度以前の税制に戻す必要があると提案した下記の拙著から作成したものだ。
問題集としたのは、できる限り私見を排除し、皆さんにデータだけに注目して頂きたかったからだ。
これでは物足りない。私見でいいから解説を聞きたいという方々は、「日本が幸せになれるシステム」も合わせて読んで頂きたい。
今、政治家や財務官僚が述べていることの理解が深まることと思う。